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    房一は話を変へた。

    「大きに。ありがたうござんす。よろしう頼んます」

    練吉は顔をしかめ、手を振つた。

    と云つた。

    「便所に化物が出たそうです。」

    徳次は一種くさめをする前のやうな、煙けむたげな表情になりながらわき見をしたり、房一を眺めたり、どぎまぎして答へた。

    今泉は調子づいた。

    そこへは、案内も乞はずに、小谷吾郎が気がるに裏口から入つて来た。

    夜になるとその谷間は真黒な闇に呑まれてしまう。闇の底をごうごうと溪たにが流れている。私の毎夜下りてゆく浴場はその溪ぎわにあった。

    口を切つたものの房一は頭の中でとまどつていた。あんなに考へていた言葉が今急にどこかへ消えてしまひ、何を云ひ出したのか後をどう云つたものか判らなくなつてしまひさうに感じた。彼はかすかに汗ばみ、そのどちらかと云へば醜いむくれ上つた眉肉や厚い唇が力味を帯び紅ばんで来た。

    相手はしばらく黙つていた。だが、場所が高いのと、柵の中にいるためか、落ちついて答へた。

    「さやうで御座りますか。お忙しいところを御苦労さまで」

    練吉は軽く頭を下げながら、相手の房一がいきなり直立不動のやうに足をそろへたのを見た。

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