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「お礼ですか」
「ふん。何でもありやせんよ。大方、腹でも痛かつたんだらう」
その「含有量」といふ言葉は富田が昨日聞き覚えたばかりのものだつた。
と、横合から老父の道平が房一に寄り添つて来た。
と、大声で訊いた。
「はン」
「はあて、神主さんになるのもえらいもんだのう」
そんな具合だから空室になつた分家の方も閉めて置くより他はなかつた。鍵屋の方はまだしも湿めつぽい匂ひがあるが、この分家は人気ひとけが去るのといつしよに家そのものの気さへ抜けてしまつて、乾いて、たゞ昔の恰好のまゝで立つているだけであつた。まさか、よそから流れこんで来た八百屋や指物師などに貸すわけにはいかない。ところが、全く打つてつけの借り手ができた。それは「医師高間房一」だつた。医者に貸すのだつたら、別に家の品を落すことはないわけだ。
「うん」
小谷はしばらく放つていた糸を手許にひきよせて、水の中の鮎を眺めながら云つた。
「あの婆さん(家主のこと)自分の掘った温泉だから、意地をはって、ガタガタふるえながら、はいってる。絶え間なくタオルで身体をこすりながら、はいってる」
「はあ、はあ」