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その外から見れば屋根と築地塀だけのやうな家の前で、三人の男が立つてしきりと話していた。
「ハッパもいゝが、近頃は土方がいたづらをするとか云うて、女の子が下の方を恐はがつて通らんていふぢやないかね」
「何だらう、山師を煽おだてて又一儲けしようてんだらう」
「昨日、君とこの奥さんがバスに乗るところを見かけたが、――」
ふたたび相手の鞄にちらりと目をやりながら、練吉は半ば信じない風に訊いた。
と、誰かが大声で叫んだ。
「坑には入つてみたんかね。あすこはもう何年も入つた人がないちふことだが」
彼の現実的に鋭い頭が働きをとめたわけではなかつた。又、あの身うちから溢れるやうに頭を持上げて来る野気を失つたわけでもない。それらはたゞ、急がば廻れといふ風にどつかりと彼の中に腰を下し、緩漫な暢のびやかな四囲の空気と調子を合せることを覚えこんだのである。もともと彼の野心といふものには格別はつきりした目標があつたのではない。漠然とした、無意識のうちに魂の孕はらむ夢といつた風なものだつた。が、今やその魂はどうにか方向を見つけ、その形づくらうと欲しているものを予感し、穏かに、着実になつた、といふやうに見えた。
「ふむ」
威勢よくやつて、相手にされると腰を落ちつけて、人の好さがまる出しになつて、大声で喋りまくる。と云つても、彼自身には何の話の種もないので、多くは人の相槌を打つたり、今他人から聞いた通りのことを彼の声音で何か別の話のやうに見せながら話すだけなのである。
「分家の当主は今は、若い人の代で、たしか喜作といふ筈ですが、あれも随分永いこと県外に出ているさうですな」
「本当も本当でないもありやしませんよ。財産譲渡無効、その返還を請求したのだよ」
読経どきやうはまだ始まらなかつた。